症例紹介

歯が1本もない方にお勧めのインプラントオーバーデンチャー

「2本のインプラントと高精度な総義歯で噛める入れ歯を!」

数十年前でしたら歯をすべて失った方は総義歯しかなかったのですが、近年は医療技術の進歩により治療方法の選択肢が増えました。
方法によっては審美性・噛む力・装着感もかなり良い状態に改善できるようになってきました。

歯をすべて失ってしまわれた方の治療方法としては
①総義歯
②インプラント
③インプラントオーバーデンチャー(インプラントもしくは根の部分だけ残った天然の歯の上に磁石などをくっつけて総義歯の安定・噛む力を向上させたもの)
が考えられます。

すべての歯をインプラントにて回復する場合、機能的にはもっとも良好な結果が期待できますが、治療費・外科処置というご負担がどうしても大きくなりがちです。
そこで、ご高齢の患者様にも比較的少ないご負担で快適な義歯を提供できる方法がオンプラント・オーバーデンチャーです。

インプラント・オーバーデンチャーは取り外しの義歯の異物感には耐えられるが、もっと安定が良くしっかり噛める義歯をご希望の方にお勧めです。すべてインプラントで固定式の歯を作る場合に比べると治療費をかなり低く抑えることが可能な治療方法です。

適合が悪くてガタガタ動く義歯をインプラントを利用して安定させるわけでなく、適合の良い高精度な総義歯であるが、顎骨の条件が悪く安定が得られない方、もっと硬いものを噛みたいとおっしゃる方にお勧めです。
インプラントの維持装置の上に不適合な義歯を入れるとインプラントが揺すられて寿命が短くなってしまいます。

インプラントオーバーデンチャーをお勧めした患者様のお話を紹介します。

一年前に八三歳の総義歯でお悩みの男性の患者様が受診中の奥さまのご紹介で来院されました。

「先生、入れ歯が合わないんですよ。」と五セットの総義歯を取り出し「これはA歯科医院、これはB歯科医院にて一年前に作ったものです。これは・・・。」次々に今まで使ってこられた総義歯の歴史を語り始められました。
それらの中には金属の部品を使った高価な義歯もいくつか含まれていました。

お口の中の状態を見せていただくと上下ともにすべての歯が欠損となっており、下顎の義歯が入る部分の骨はかなり痩せてみえるようでしたので、レントゲン写真にて骨の状態を診査させていただきました。顎の骨はかなり薄くなっており義歯の安定を得ることはかなり困難であることが予想されました。

通常、上顎の総義歯については安定を得ることはそれほど難しくはありませんが、下顎の総義歯については浮き上がってくる・痛いといった悩みを抱えてみえることが多いです。
部分入れ歯の場合は残っている歯に対して金属のばねをひっかけて安定を得るのですが、総義歯の場合はちょうど吸盤と同じ原理で空気が義歯の周囲から漏れないようにして吸着・安定を得ます。
ところが下顎の総義歯の場合は、舌が動いたり頬の粘膜が動いたり唇が動いたりと何かと義歯が外れる力がかかりやすいこと、上顎に比べ力を受ける粘膜の面積を舌の分大きくできないこと、粘膜が元々薄く痛みが出やすいことなど悪条件がかさなり、通常安定を得ることが困難なことが多いです。

お持ちになられたすべての義歯を順番に装着してみると、型どりがうまくいっておらず適合の悪いもの、義歯の形態が大きすぎるもの小さすぎるもの、かみ合わせがうまくいっていないものなどそれぞれがいろんな問題を抱えていました。

実際に入れ歯の完成度に大きく影響するのは術者の知識・技術、義歯を実際製作する歯科技工士の知識・技術、あとは精度の高い機材・材料です。
これらがうまく合わさった時に良い義歯が出来上がるのですが、ほかの歯科治療に比べ技術習得までに多大なる時間がかかります。
それに加えて保険診療における総義歯はかなり不採算という問題があり多くの歯科医・歯科技工士から敬遠され、その結果、巷に多くの不適合な総義歯が出回っていると考えられます。

それでも一部の歯科医・歯科技工士は総義歯臨床に情熱をもって取り組んでいます。
完成度を高めるために義歯の型どり・かみ合わせの位置決め・人工歯の配列位置・義歯の素材の選択・最終仕上げ、一つ一つの工程をしっかり行い、高精度に仕上げるために多くの時間・多くの良質な材料を費やしています。
そのため、保険診療にていただける費用では全く採算が取れないという問題が発生しています(私の知人の歯科技工士の場合、保険診療の義歯五個作成するのに要する時間と労力を費やしています)。

一つの義歯が出来上がるまでの見えない努力により義歯の完成度が高まるのですが、実際完成した義歯だけを見せられてもどれ程の手間・暇をかけられているということは分かりにくいものです。しかし、完成した義歯を口腔内に装着してみると費用に見合ったものであることに気付いていただけると思います。

日々、診療を行いながら感じることなのですが、治療の成功・失敗を決めるのは患者様の満足度であると考えますが、特に義歯の成否の判断においては、患者様の主観によるところが大きく、かなりガタガタの義歯であっても、歯肉が厚く傷みなく使っていただけるケース、反対に適合も噛み合わせも良く審美性も高いにもかかわらず歯肉が薄い・痛みに弱く繊細な患者様の場合にはクレームが出ることがあります。

さまざまな患者様がみえる中、ほぼ全員に喜んでいただけている治療方法の一つが総義歯のインプラント・オーバーデンチャーです。
下顎の入れ歯の下にインプラントを入れその上に磁石などを利用した安定装置を入れることで外れにくいだけでなく、しっかり噛めるようになるので、長年諦めていた硬い食べ物も噛めるようになり非常に喜んでいただいています。

ある程度、コンディションの良い方、それ程期待が高くない方は保険診療にて作成させていただいた義歯でも満足していただける可能性があります。
しかし、もともとの歯ぐきの状態が良くない方、義歯に対するご期待がとても高い方に対しては通常の保険診療にてご期待にお応えするのは正直申しあげて不可能です。
コンディションが明らかに良くない方には従来通りの方法では同じ結果しか望めないと考え精密義歯をお勧めしています。

精密義歯は最適な大きさ・形態・かみ合わせを熟練した歯科医・歯科技工士が患者様に合わせて決めていきます。熟練した術者が熟練したセンスと高価なひずみの少ない材料を用いて作成するために高精度となります。
今回来院されましたこの患者さんにつきましては、ご高齢ということと年金暮らしということを伺っていましたので高額な高精度義歯をお勧めするべきか悩みました。

ある日、奥さまが定期健診のため来院された時、「私、主人と一緒に食事するのが辛いんです。入れ歯が合わなくて食事が取れない主人の前で自分だけ快適に食事できるのが辛いので、私だけ隠れて1人で食事しています。」とのことでした。

患者様は八四歳とご高齢・年金暮らし・・・。
数十万円の治療費を請求して良いものか?
今まで治療計画を立てる際、平均余命というのも加味して治療計画を提示してきました。

現在の日本人の平均寿命は男性七九歳、女性八五歳です。昔は一〇〇歳まで長生きされた方はニュースになっていましたが、最近ではニュースにならないほど長生きされる方が増えています。八四歳の方が一〇〇歳になられるまであと一六年か・・・。食事は一日三回。ご高齢の方にとっての食事は大切な楽しみでもあるよな・・・。

いろいろ悩んだ挙句、精密義歯とインプラントオーバーデンチャーをお勧めすることにしました。
利点欠点すべてお話したところ患者様からは「先生に最後賭けてみる。」と言っていただきました。

その後順調にインプラントの植え込み手術・総義歯作成後、インプラントの上に磁石を入れて義歯が安定するようにしました。
ちょうど、新しい義歯装着後一週間の時、「先生、数十年ぶりにピーナッツが食べれました!」
いつも、なんとなく暗いイメージのこの患者様が急に姿勢もシャンとして、とにかく満面の笑みでお話していただきました。
それから後数カ月後、以前は少し痩せ気味だった体格が、いまでは少しだけふっくらされました。

通常インプラント オーバーデンチャーは下顎の犬歯(前から数えて三番目の歯)のところに左右一本ずつ植え込みを行い、さまざまな装置にて総義歯を安定させます。
外科的侵襲もそれほど大きくなく(インプラントの植え込み手術も比較的早く終わり、術後の腫れ、痛みも比較的少ない。)費用もすべてインプラントで治療する場合に比べ圧倒的に低価格に抑えられるので、ご高齢者にまで利用できる治療方法であると考え多くの患者様に行っております。

Before

After

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