子どもの矯正治療はいつから?歯科医が教える最適な開始時期と、MFT・口呼吸・癖の重要性
こんにちは。三重県鈴鹿市の大木歯科医院 院長の笠井 啓次です。
当院では、インプラント治療やむし歯治療と並び、お子様の歯並びに関するご相談(小児矯正)にも力を入れております。親御さんから、カウンセリングの際に最も多くいただくご質問、それは、「子どもの歯並びが気になるのですが、矯正治療は、一体いつから始めるのが良いのでしょうか?」というものです。
「まだ乳歯も残っていますが、もう始めた方がいいですか?」 「永久歯が全部生えそろってからの方が、良いのでしょうか?」 「指しゃぶりや口呼吸といった癖も、歯並びに関係あるのでしょうか?」
お子様の健やかな成長を願う親御さんとして、当然の疑問だと思います。「矯正治療は、永久歯が生えそろってから始めるもの」と、一昔前は考えられていた時代もありました。しかし、現代の矯正歯科の考え方は、大きく変わってきています。単に歯並びを整えるだけでなく、歯並びが悪くなった「根本的な原因」にアプローチし、お子様の顎(あご)の健やかな成長を促すこと。これこそが、小児矯正の最も重要な目的なのです。
今回は、子どもの矯正治療を始める最適な時期、そして、歯並びに深刻な影響を与える「口呼吸」や「癖」の改善、そのためのトレーニングである「MFT」の重要性について、詳しく解説していきます。
目次
- 子どもの矯正治療(小児矯正)は、大人の矯正と何が違うのか?
- 治療開始の「ゴールデンタイム」はいつ?第一期治療と第二期治療
- 歯並びを悪くする真犯人!見逃してはいけない「口腔習癖(こうくうしゅうへき)」
- 「お口の筋トレ」MFT(口腔筋機能療法)とは?
- MFTの具体的な治療内容と、ご家庭でできること
- まとめ
1. 子どもの矯正治療(小児矯正)は、大人の矯正と何が違うのか?
まず、大人の矯正治療と、子どもの矯正治療(小児矯正)との、決定的な違いについてご説明します。大人の矯正治療は、すでに成長が完了した顎の骨の中で、歯を動かして「歯並び」を整えることが、主な目的となります。顎の骨の大きさや位置関係は、基本的には変えることができないため、歯を並べるスペースが足りなければ、抜歯を選択せざるを得ないケースも多くなります。
一方、子どもの矯正治療は、まだ成長の途中である「顎の骨」そのものにアプローチできることが、最大の強みです。歯が並ぶための土台である顎の骨の成長を、適切な時期に、適切な方向にコントロールし、誘導すること(咬合育成)が、治療の中心となります。
例えば、顎が小さくて歯が並びきらない(叢生:そうせい)傾向があるお子様には、顎を広げる装置(拡大装置)を使って、永久歯が生えてくるための十分なスペースを確保する、といったことが可能です。また、上顎の成長が悪い、あるいは下顎が過剰に成長している「受け口(下顎前突)」の傾向がある場合にも、成長期にしかできない方法で、骨格的なバランスを改善に導くアプローチが可能になります。
つまり、小児矯正は、「歯並びが悪くなってから治す」治療というよりも、「歯並びが悪くなる原因を根本から取り除き、永久歯が綺麗に並ぶための“土台”を整える」ための、非常に重要な予防的・育成的な治療なのです。この「土台作り」を適切に行うことで、将来的に永久歯の抜歯を避けられる可能性が高まったり、大人の矯正(第二期治療)が必要になった場合でも、その治療がより簡単で、短期間に、そしてより良い結果で終えられる可能性が高まるのです。
2. 治療開始の「ゴールデンタイム」はいつ?第一期治療と第二期治療
「いつから始めるか」というご質問ですが、これには「〇歳になったら」という画一的な答えはありません。お子様一人ひとりの成長のスピードや、歯並びの問題の種類によって、最適な開始時期は異なります。ただし、一般的な目安として、小児矯正は大きく二つのステップに分けられます。
- 第一期治療(骨格矯正期・混合歯列期)
- 時期の目安:6歳~12歳頃(上下の前歯が永久歯に生え変わり、奥歯にも永久歯(6歳臼歯)が生えてくる、乳歯と永久歯が混在している時期)
- 主な目的:この時期こそが、小児矯正の「ゴールデンタイム」です。上述したように、顎の骨の成長をコントロールすることが最大の目的です。顎を広げてスペースを作ったり、上下の顎の成長バランスを整えたり、後述する悪習癖(口呼吸や舌の癖など)を改善したりします。
- 使用する装置:取り外し可能な拡大装置(床矯正装置)や、就寝時につける機能的矯正装置(受け口を治すムーシールドなど)、固定式の急速拡大装置など、症状に合わせて様々な装置を使い分けます。
- この時期に治療を始めるべきサイン:「受け口になっている」「前歯がひどくガタガタしている」「永久歯が生えるスペースが明らかに足りない」「噛み合わせが深い(過蓋咬合)」「前歯が噛み合わない(開咬)」など。
- 第二期治療(歯列矯正期・永久歯列期)
- 時期の目安:12歳~成人(全ての永久歯が生えそろった時期)
- 主な目的:第一期治療で整えた顎の土台の上に、永久歯一本一本を、ワイヤーやマウスピース(インビザライン)などの装置を使って、最終的に美しく、機能的な位置に並べていきます。これは、一般的に皆さんがイメージされる「本格的な矯正治療」と同じです。
- 第一期治療からの流れ:第一期治療で土台作りがうまくいっていれば、この第二期治療が不要になる(永久歯が自然に綺麗に並ぶ)ケースもありますし、必要になった場合でも、抜歯をせずに、短期間で治療が完了する可能性が高くなります。
したがって、矯正相談のベストタイミングは、「永久歯が生え始めた6~7歳頃」、あるいは、それ以前でも「受け口や、お口の癖が気になる」と親御さんが気づいた時点です。早すぎる、ということはありません。まずは一度、専門家に相談し、お子様の顎の成長の状態を把握し、適切な介入時期を見極めることが何よりも大切です。
3. 歯並びを悪くする真犯人!見逃してはいけない「口腔習癖(こうくうしゅうへき)」
実は、子どもの歯並びが悪くなる原因は、遺伝的なもの(親御さんから受け継いだ骨格など)だけではありません。むしろ、近年の子どもたちにおいては、生まれてからの後天的な「癖(くせ)」や「習慣」が、歯並びや顎の成長に深刻な悪影響を及ぼしているケースが、非常に多く見受けられます。これらを「口腔習癖(こうくうしゅうへき)」と呼びます。
歯や顎の骨は、非常に弱い力であっても、それが毎日、持続的に加わり続けると、その力の方向に動いたり、変形したりしてしまいます。以下のような癖に心当たりはありませんか?
- ① 口呼吸(こうこきゅう): 本来、人間は鼻で呼吸するのが正常です。しかし、アレルギー性鼻炎やアデノイド(咽頭扁桃)肥大などで鼻が詰まっている、あるいは、単に癖になってしまい、お口がポカンと開いたまま、口で呼吸しているお子様が非常に増えています。口呼吸が続くと、唇の筋肉(口輪筋)が緩み、舌の位置が本来あるべき上顎から低い位置(下顎)に落ちてしまいます(低位舌)。すると、上顎を内側から広げる舌の力がかからず、逆に頬からの圧力が優位になり、上顎の歯列が狭くなる(狭窄歯列弓)原因となります。これが、歯が並ぶスペース不足によるガタガタ(叢生)や、出っ歯の大きな原因となります。
- ② 舌の癖(舌癖:ぜつへき): 食べ物や飲み物を飲み込む時(嚥下時)に、舌で前歯を裏側から押し出す癖(舌突出癖)や、安静時に舌が常に前歯の間から出ていたり、下の前歯を押していたりする癖です。この舌の持続的な力が、前歯を押し広げ、「すきっ歯(空隙歯列)」や、奥歯で噛んでも前歯が噛み合わない「開咬(かいこう)」の、直接的な原因となります。
- ③ 指しゃぶり(吸指癖): 3歳頃までの指しゃぶりは、生理的なものであり、過度に心配する必要はありません。しかし、4~5歳を過ぎても続いている場合は、指が上下の前歯の間にあることで「開咬」になったり、指が上顎の前歯を前方に押し出すことで「出っ歯(上顎前突)」になったりするリスクが非常に高まります。
これらの口腔習癖は、単に歯並びを悪くするだけでなく、発音や、食べ方(咀嚼・嚥下)、顔貌(顔つき)の発達にも悪影響を及ぼします。もし、これらの癖に気づいたら、それが「歯並びが悪くなっているサイン」かもしれないと捉え、早期にご相談いただくことが重要です。
4. 「お口の筋トレ」MFT(口腔筋機能療法)とは?
では、これらの「口腔習癖」を改善するために、どうすれば良いのでしょうか。 「口を閉じなさい!」「舌を前に出さない!」と注意するだけで、無意識の癖を治すのは非常に困難です。そこで登場するのが、「MFT(Oral Myofunctional Therapy:口腔筋機能療法)」です。
MFTとは、一言で言えば、「お口の周りの筋肉(舌・唇・頬など)の、正しい使い方を覚えるためのトレーニング(筋トレ)」です。歯並びは、外側からの唇や頬の筋肉の圧力と、内側からの舌の圧力の、絶妙なバランスの上に成り立っています。この筋肉のバランスが、口呼吸や舌癖によって崩れてしまうと、歯はバランスの崩れた方へと移動し、歯並びが悪化します。
矯正装置で歯並びを一時的に綺麗にしても、この根本的な原因である「筋肉のアンバランス」が改善されていなければ、どうなるでしょうか。治療後に装置を外した途端、また元の癖の力によって、歯は悪い位置へと戻ろうとしてしまいます。これが、矯正治療後の「後戻り」の最大の原因です。
MFTは、この根本原因にアプローチする治療法です。正しい舌の位置(スポットポジション)、正しい飲み込み方(嚥下)、正しい鼻呼吸を、様々なトレーニングを通じて再学習し、それを無意識レベルでできるように習慣化していきます。これにより、お口周りの筋肉のバランスを整え、歯が本来あるべき正しい位置に安定するよう、内側からサポートするのです。小児矯正において、矯正装置による「土台作り」と、MFTによる「筋肉の環境作り」は、まさに車の両輪であり、どちらが欠けても、長期的に安定した、真に健康な歯並びを手に入れることは難しいのです。
5. MFTの具体的な治療内容と、ご家庭でできること
MFTは、単なる精神論ではなく、専門的な知識を持った歯科医師や歯科衛生士の指導のもとで行う、医療行為(リハビリテーション)です。当院(大木歯科医院)でも、専門のトレーニングを受けたスタッフが、お子様一人ひとりの癖や筋力に合わせて、最適なプログラムを立案し、マンツーマンで指導を行います。
- 治療のステップ:
- 評価・診断:まず、患者様のお口の癖(舌の位置、飲み込み方、唇の閉じ方など)を詳細に評価し、どこに問題があるのかを正確に診断します。
- トレーニングの実施:診断に基づき、個別のトレーニングメニューを作成します。
- スポットポジションの練習:舌の正しい位置(上顎の天井部分にある、少し膨らんだスポット)を覚える練習。
- ポッピング:舌全体を上顎に吸い付け、ポン!と音を鳴らす練習(舌を持ち上げる筋力を鍛える)。
- スワローイング(嚥下)練習:正しい舌の動きで、水や食べ物を飲み込む練習。
- リップトレーニング:唇を閉じる力(口輪筋)を鍛えるため、ボタンに糸をつけた装置を唇で引っ張る練習など。
- ご家庭での宿題:歯科医院で練習した内容を、ご自宅でも「宿題」として毎日継続していただきます。MFTは、週に1回、数十分トレーニングしただけでは身につきません。スポーツや楽器の練習と同じで、毎日の地道な反復練習こそが、成功の鍵となります。
- 定期的なチェックとステップアップ:通院時に、宿題が正しくできているかをチェックし、筋力がついてきたら、次のステップのトレーニングに進んでいきます。
- 治療期間: 癖の強さや、お子様の習熟度にもよりますが、正しい筋肉の動きが無意識にできるようになるまでには、数ヶ月から1年、あるいはそれ以上の期間、継続的なトレーニングが必要となります。
- ご家庭でできること(MFTの第一歩): 専門的なトレーニングの前に、まずはご家庭で、お子様の「気づき」を促すことから始めてみてください。
- 「お口、ポカンと開いてない?」と優しく声をかける。
- 食事の際に、「お口を閉じて、よく噛んで食べようね」と、一口ごとに意識させる。
- 鼻呼吸を促すために、鼻炎などがないか、耳鼻咽喉科で相談してみる。
- 風船を膨らませる、ストローでブクブクするなど、遊びながら唇や頬の筋肉を使う機会を増やす。
これらの小さな積み重ねが、お子様のお口の機能を発達させ、MFTへのスムーズな移行にも繋がります。
6. まとめ
お子様の矯正治療をいつから始めるべきか、そして、MFTや癖の改善がいかに重要か、ご理解いただけましたでしょうか。
- 子どもの矯正治療(第一期治療)は、顎の成長をコントロールできる6~12歳頃がゴールデンタイム。
- 「受け口」や「開咬」、「重度のガタガタ」など、気になるサインを見つけたら、すぐに相談することが、将来の抜歯リスクや治療負担を減らす鍵。
- 歯並びを悪くする真犯人として、**「口呼吸」「舌癖」「指しゃぶり」**といった「口腔習癖」が非常に大きな影響を与えている。
- これらの癖を根本から改善し、後戻りを防ぐために、**「MFT(お口の筋トレ)」**が極めて重要。
- MFTは、歯科医院での専門的な指導と、ご家庭での毎日の練習によって、初めて効果を発揮する。
矯正治療は、単に歯を並べることではありません。特に、お子様の矯正治療は、その子の将来の健康な顎顔面の発育を、正しく導いてあげる「咬合育成」です。そのためには、装置の力だけでなく、お口周りの筋肉や、呼吸、飲み込み方といった「機能」を、正常な状態に整えてあげることが不可欠です。
三重県鈴鹿市にある私たち大木歯科医院では、精密な検査・診断に基づき、お子様一人ひとりの成長段階と、歯並びの原因に合わせた、最適な治療開始時期と治療法(矯正装置+MFT)をご提案しています。「うちの子、ちょっと気になるかも…」そう思われたら、その時が相談のベストタイミングです。どうぞお気軽に、ご相談ください。