歯科ブログ

インプラントは「入れたら終わり」じゃない!歯科医が教えるお手入れ方法と、寿命を左右するメンテナンス費用

こんにちは。三重県鈴鹿市の大木歯科医院 院長の笠井 啓次です。

インプラント治療が完了し、再びご自身の歯のようにしっかりと噛めるようになった患者様の笑顔を拝見することは、私たち歯科医師にとって、何よりの喜びです。しかし、その際、私はいつも患者様に、一つの非常に重要なお話をさせていただきます。それは、「インプラントは、入れたら終わりではありません。ここからが、その歯を一生守っていくための、本当のスタートです」ということです。

先日も、治療を終えられた患者様から、まさにその核心に触れる、こんなご質問をいただきました。 「インプラントのお手入れについて質問です。毎日の歯磨きは、普通の歯ブラシで良いのでしょうか?あと、歯医者さんでのメンテナンスには、どのくらいの頻度で、どのくらいの費用(メンテ代)がかかるのですか?」

これは、インプラントを長持ちさせる上で、最も重要なご質問です。インプラントは、適切なケアを継続すれば、数十年、あるいは生涯にわたって機能し続ける可能性を秘めた、素晴らしい人工臓器です。しかし、その“適切なケア”を怠ってしまうと、数年でダメになってしまうこともあります。今回は、あなたのインプラントを本当の意味で「一生もの」にするための、日々のセルフケアと、歯科医院でのプロフェッショナルケアについて、詳しく解説していきます。

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目次

 

  1. なぜインプラントに「お手入れ」が不可欠なのか?最大の敵「インプラント周囲炎」
  2. ご自宅での毎日のお手入れ方法(セルフケア):専用の歯ブラシは必要?
  3. 歯ブラシだけでは不十分!インプラントケアの「三種の神器」とは
  4. 歯科医院での定期メンテナンス(プロフェッショナルケア)の具体的な内容
  5. メンテナンスの「頻度」と「費用(メンテ代)」について
  6. もし、お手入れを怠ってしまったら…?メンテナンスを中断するリスク
  7. まとめ

 

1. なぜインプラントに「お手入れ」が不可欠なのか?最大の敵「インプラント周囲炎」

 

まず、なぜインプラントのメンテナンスが、天然の歯以上に重要なのか、その理由からご説明します。インプラントの歯自体(被せ物)は、高品質なセラミックなどで作られているため、天然の歯のように「むし歯」になることはありません。しかし、インプラントは、天然歯の「歯周病」と非常によく似た、もっと恐ろしい病気になるリスクを抱えています。それが、「インプラント周囲炎(しゅういえん)」です。

これは、インプラントの周りに付着した歯垢(プラーク)の中の細菌が原因で、歯茎に炎症が起き、進行すると、インプラントを支えている顎の骨そのものを溶かしてしまう、非常に恐ろしい病気です。天然の歯には、歯と骨の間に「歯根膜(しこんまく)」という、血管が豊富なクッション組織があり、細菌が侵入してきた際に、免疫細胞が戦ってくれる「防御システム」が備わっています。しかし、インプラントには、この歯根膜が存在しません。 骨と直接結合しているため、一度歯茎の奥に細菌が侵入すると、それを食い止める防御壁が非常に脆いのです。

そのため、インプラント周囲炎は、一度発症すると天然歯の歯周病よりも、はるかに進行が速いのが最大の特徴です。さらに、インプラントには神経が通っていないため、炎症が起きても、かなり進行するまで「痛み」などの自覚症状がほとんど現れません。 「特に何の症状もないから、メンテナンスはまた今度でいいか…」と自己判断で放置していると、久しぶりに歯科医院でチェックした際には、すでに手遅れに近い状態まで骨が溶けてしまっている…それが、インプラント周囲炎の最も典型的な、そして最も悲劇的なパターンなのです。この病気を防ぐこと、それこそが、お手入れの最大の目的なのです。

 

2. ご自宅での毎日のお手入れ方法(セルフケア):専用の歯ブラシは必要?

 

ご質問にあった「毎日の歯磨きは、普通の歯ブラシで良いのでしょうか?」という点についてお答えします。はい、基本的には、普段お使いの歯ブラシ(普通の歯ブラシ)によるブラッシングが、セルフケアの土台となります。 ただし、選び方と使い方には、インプラントならではのコツが必要です。

  • 歯ブラシの選び方 まず、歯ブラシは、ヘッドが小さく、小回りの利く「コンパクトヘッド」を選びましょう。奥歯や、インプラントの周りの複雑な形にも、毛先が届きやすくなります。毛の硬さは、歯茎を傷つけないよう「やわらかめ」または「ふつう」を推奨します。電動歯ブラシも、インプラントに使用して問題ありませんが、強く当てすぎないよう、モードや力加減に注意が必要です。
  • 歯ブラシの当て方のポイント 最も汚れが溜まりやすく、インプラント周囲炎の起点となるのが、インプラントの被せ物と、歯茎との境目です。この境目に、歯ブラシの毛先を45度の角度で優しく当て、小刻みに振動させるように、1本1本丁寧に磨いてください。ゴシゴシと力を入れて往復させる「横磨き」は、歯茎を傷つけるだけでなく、肝心な境目の汚れが落ちないため、絶対にNGです。力を入れすぎず、毛先が軽く触れる程度の圧(100g~200g程度)で、優しくマッサージするように磨くのがコツです。天然の歯以上に、この「境目」を意識して、丁寧に時間をかける必要があります。
  • 「専用」という考え方 「インプラント専用」と銘打たれた歯ブラシも市販されていますが、必ずしもそれを使う必要はありません。それよりも、ご自身のお口の状態や、インプラントの形状に合った歯ブラシ(コンパクトヘッド、やわらかめなど)を、私たち歯科医師や歯科衛生士が選び、その正しい使い方をマスターしていただくことの方が、何倍も重要です。ただし、歯ブラシ1本だけでは、インプラントの周りを完璧に清掃することは、残念ながら不可能です。次のセクションで、歯ブラシと併用すべき「必須アイテム」についてご説明します。

 

3. 歯ブラシだけでは不十分!インプラントケアの「三種の神器」とは

 

インプラントを長持ちさせるためのセルフケアは、歯ブラシ1本では絶対に完結しません。歯ブラシが届きにくい場所を清掃するための、「補助清掃用具」の併用が、絶対に不可欠です。私たちは、これを「インプラントケアの三種の神器」と呼んでいます。

  1. 歯ブラシ(基本の清掃): 前述の通り、歯の表面と、歯茎との境目の広い範囲を清掃します。
  2. 歯間ブラシ(最重要アイテム) インプラントケアの主役とも言えるのが、この「歯間ブラシ」です。天然歯と異なり、インプラントの被せ物は、根元(歯茎との境目)がわずかに細く、汚れが溜まりやすい形態になっていることが多くあります。また、インプラントと隣の天然歯との間の隙間は、歯ブラシの毛先が絶対に届かない「聖域」です。この隙間に、ご自身の隙間のサイズに合った歯間ブラシを挿入し、前後に数回動かすことで、プラークを徹底的に掻き出します。特に奥歯のインプラントには必須です。サイズが合わないもの(太すぎるもの)を無理に使うと歯茎を傷めるので、適切なサイズは必ず私たちにご相談ください。
  3. タフトブラシ(ワンタフトブラシ) 毛先が小さく、鉛筆の先のように細く尖った形の、仕上げ磨き用の歯ブラシです。インプラントの被せ物は、天然歯よりも複雑な形態をしていることがあります。特に、インプラントの根元の周り(歯茎との境目)を、ぐるりと一周なぞるように磨いたり、歯ブラシが届きにくい一番奥の歯の後ろ側を磨いたりするのに、絶大な威力を発揮します。

「歯ブラシ」で全体の汚れを落とし、「歯間ブラシ」で歯と歯の間の汚れを掻き出し、「タフトブラシ」で歯茎の境目や細かい部分を仕上げる。この3つのステップを、毎日の習慣にしていただくことが、インプラント周囲炎を防ぐための、最も強力なセルフケアとなります。最初は面倒に感じられるかもしれませんが、5分もあれば完了します。この毎日の5分が、あなたのインプラントの未来を決めると言っても過言ではありません。

 

4. 歯科医院での定期メンテナンス(プロフェッショナルケア)の具体的な内容

 

ご質問の後半、「歯医者さんでのメンテナンス」についてです。どれだけご自身でセルフケアを完璧に行っているつもりでも、残念ながら、100%汚れを取り除くことは不可能です。磨き残したプラークは、やがて「バイオフィルム」という、細菌が強固にバリアを張った集合体になり、さらには「歯石」という硬い石のようになって、ご自身の歯磨きでは絶対に除去できなくなります。

歯科医院での定期メンテナンス(プロフェッショナルケア)は、このご自身ではコントロールできないレベルの汚れを、専門的な器具と技術で徹底的に破壊・除去するための、必要不可欠なプロセスです。また、それだけでなく、インプラントに異常が起きていないかを、プロの目でチェックする「健康診断」でもあります。

【定期メンテナンスの主な内容】

  • ①問診と口腔内チェック:ご自宅での様子や、何か変わりがないかをお伺いします。そして、インプラント周囲の歯茎の炎症、出血の有無、歯周ポケットの深さ(ポケットブリーディング:BOP)などを、天然歯と同じように、しかし、より慎重にチェックします。
  • ②インプラントの状態チェック:インプラント本体にグラつき(動揺)がないか、被せ物(上部構造)に欠けや緩みがないか、被せ物とインプラントを連結しているネジ(スクリュー)に緩みがないかを、専用の器具で確認します。
  • ③レントゲン撮影による骨レベルの確認:毎回ではありませんが、通常、年に1回程度はレントゲンを撮影し、インプラントを支えている顎の骨が溶けていないか(骨吸収が起きていないか)を、目に見えない部分まで精密に確認します。
  • ④専門的なクリーニング(PMTC):インプラントのチタン表面を傷つけないよう、プラスチック製やカーボン製の専用器具、あるいは専用のパウダー(エアフロー)を用いて、歯ブラシでは落とせないバイオフィルムや歯石を徹底的に除去します。
  • ⑤噛み合わせのチェックと調整:インプラントの寿命にとって、非常に重要なのが「噛み合わせ」です。インプラントには、天然歯にある「歯根膜」というクッションがないため、噛む力がダイレクトに骨にかかります。噛み合わせが強すぎると(過重負担)、インプラントや骨にダメージを与え、ネジの緩みや骨吸収の原因となります。定期的に噛み合わせをチェックし、必要であれば微調整を行います。

 

5. メンテナンスの「頻度」と「費用(メンテ代)」について

 

ご質問の核心である「頻度」と「費用」についてお答えします。

  • メンテナンスの頻度 お口の中のリスク(清掃状態、歯周病の既往、喫煙習慣の有無、糖尿病などの全身疾患など)によって個人差がありますが、一般的に、インプラント治療後は、3ヶ月~半年に1回のペースでの定期メンテナンスを推奨しています。特にリスクが高い(インプラント周囲炎になりやすい)と判断される方は、3ヶ月ごと、あるいは1~2ヶ月ごとの、より短い間隔での来院をお願いすることもあります。
  • メンテナンスの費用(メンテ代) これが非常に重要なポイントです。インプラント治療そのものと同様に、インプラントの定期メンテナンスも、公的医療保険が適用されない「自由診療(自費診療)」となります。 「え?歯の掃除なのに、保険が効かないの?」と驚かれるかもしれません。これは、インプラントという治療法自体が、保険診療の枠組みに含まれていないため、それに付随するメンテナンスも保険適用外となるためです。 ただし、インプラント以外の、残っているご自身の天然歯の検査やクリーニング、歯周病治療については、もちろん保険が適用されます。 そのため、メンテナンス当日の費用は、 「天然歯のメンテナンス費用(保険適用:数千円程度)」 + 「インプラントのメンテナンス費用(自由診療)」 という、二つの費用の合計になるのが一般的です。 この自由診療となる「インプラントのメンテナンス費用」は、歯科医院によって設定が異なりますが、当院(大木歯科医院)の場合も含め、一般的には、1回あたり5,000円~15,000円程度を相場としている医院が多いようです。 「高いな」と感じられるかもしれませんが、これは、あなたの高価なインプラントを、インプラント周囲炎という最大の敵から守り、10年、20年と長持ちさせるための、いわば「必要経費」「保険料」のようなものです。次のセクションで、もしこれを怠った場合の、経済的なデメリットについてもお話しします。

 

6. もし、お手入れを怠ってしまったら…?メンテナンスを中断するリスク

 

「費用もかかるし、特に痛くもないから、メンテナンスは行かなくてもいいか」…もし、そう考えてしまったとしたら、それは、せっかく手に入れたインプラントの寿命を、ご自身で縮めてしまう行為に他なりません。メンテナンスを中断した場合のリスク(デメリット)は、計り知れません。

  • 身体的・精神的デメリット: セルフケアだけでは防ぎきれないインプラント周囲炎が、自覚症状のないまま進行します。歯茎が腫れ、出血し、膿が出て、口臭が強くなり、最終的にはインプラントを支える骨が溶け、インプラントがグラグラになります。この状態になると、治療は非常に困難を極めます。最悪の場合、そのインプラントを摘出する(抜く)しかありません。インプラントの撤去手術は、埋め込む時よりも、さらに大きな外科処置となり、身体的・精神的な苦痛は計り知れません。
  • 経済的デメリット: インプラント周囲炎でインプラントを失った場合、治療にかかった費用(数十万円)は、全て無駄になってしまいます。さらに、失った部分の骨は大きく破壊されているため、もし、もう一度インプラントをやり直そうと思っても、大規模な骨造成(骨を増やす手術)が必要となり、初回よりも、はるかに高額な費用と、長い治療期間が必要となります。 年に数回のメンテナンス費用(年間数万円)を惜しんだ結果、その何十倍もの経済的損失を被る可能性があるのです。どちらが賢明な選択かは、火を見るよりも明らかでしょう。

 

7. まとめ

 

インプラントのメンテナンスについて、その重要性をご理解いただけましたでしょうか。

  1. インプラント最大の敵は、進行が速く、自覚症状のない「インプラント周囲炎」
  2. 日々のセルフケアでは、「歯ブラシ」に加えて、「歯間ブラシ」と「タフトブラシ」の併用が絶対に不可欠。
  3. どれだけセルフケアを頑張っても、3~6ヶ月に1回の、歯科医院でのプロフェッショナルケア(専門的清掃、噛み合わせチェック、骨の状態確認)は、絶対に省略できない。
  4. メンテナンス費用は、保険適用の部分(天然歯)と、自由診療の部分(インプラント)に分かれる。
  5. メンテナンス費用は、インプラントを失う「最悪の事態」を避けるための、最も重要で、最も費用対効果の高い「投資」である。

インプラントは、あなたのお口の中で、素晴らしい機能を発揮してくれる、頼もしいパートナーです。しかし、それは同時に、あなたが愛情を持って、日々ケアをしてあげなければ、すぐに健康を損ねてしまう、繊細な存在でもあります。そのことを決して忘れず、私たち専門家と、固いパートナーシップを組んで、一緒にあなたの大切なインプラントを、生涯にわたって守り育てていきましょう。

医療法人大木会 理事長「笠井 啓次」

鈴鹿市の歯医者「大木歯科医院」 医療法人大木会 理事長笠井 啓次

略歴

  • 国立徳島大学歯学部卒業
  • American Academy of Implant Dentistry
  • Associate Fellow
  • Astra tech implant インストラクター
  • Osstem implant インストラクター
  • 歯科医師臨床研修指導歯科医

資格・所属学会

  • アメリカインプラント学会(AAID)
  • 日本口腔インプラント学会
  • 日本審美歯科学会
  • 日本臨床歯周病学会
  • 日本小児歯科学会
  • 東京SJCD会員

一人ひとりの多様なニーズにお応えします

当院は難しい症例を含む多くの症例を経験しており、患者様の理想通りの治療をご提供できるよう、チーム一丸となって取り組んでいます。

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