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マウスピース矯正中のカレー・コーヒーは厳禁?着色対策と交換頻度の目安を歯科医が解説

こんにちは。三重県鈴鹿市の大木歯科医院 院長の笠井 啓次です。

当院でも、目立たずに歯並びを整えられる「マウスピース矯正(インビザラインなど)」は、年代を問わず非常に人気の高い治療法です。取り外しが可能で、食事制限がほとんどないことが大きな魅力の一つですよね。しかし、その手軽さゆえに、日常生活の中で「これくらいなら大丈夫だろう」と油断してしまいがちなのが、「飲み物」や「食べ物による着色」の問題です。

先日も、マウスピース矯正を始めたばかりの患者様から、こんなご質問をいただきました。 「マウスピースが染まるのが心配です。大好きなカレーやコーヒーは、矯正中はもう我慢しないといけないのでしょうか?着色しないための対策や、マウスピースの交換頻度の目安も知りたいです。」

矯正治療中でも、日々の食の楽しみは、できるだけ維持したいですよね。そのお気持ち、よく分かります。確かに、マウスピース(アライナー)は、色の濃い飲食物によって着色してしまうリスクがあります。今回は、マウスピース矯正中の着色問題、特に皆さんが大好きなカレーやコーヒーとの付き合い方、そして具体的な対策について、詳しく解説していきます。

 

目次

 

  1. なぜマウスピース(アライナー)は着色しやすいのか?
  2. 要注意!着色の2大巨頭「カレー」と「コーヒー」との付き合い方
  3. 着色だけじゃない!マウスピース装着中の飲食がもたらす別のリスク
  4. マウスピースの交換頻度と着色の関係:どのくらいで新しくなる?
  5. どうしても食べたい!飲みたい!時の着色対策とアフターケア
  6. まとめ

 

1. なぜマウスピース(アライナー)は着色しやすいのか?

 

インビザラインなどのマウスピース矯正で用いる装置(アライナー)は、医療用の特殊なプラスチック(樹脂)でできています。この装置が「目立たない」のは、透明(または半透明)であるからこそです。しかし、プラスチックという素材の性質上、目には見えない微細な凹凸や、吸水性があり、そこに飲食物の色素(ポリフェノールやクルクミンなど)が入り込み、沈着しやすいという特徴を持っています。

一度アライナーに色が沈着してしまうと、洗浄しても完全に落としきることは難しく、透明感が失われ、黄ばんだり、茶色っぽくなったりしてしまいます。せっかく「目立たない」ことをメリットに選んだマウスピース矯正が、アライナーの着色によって、かえって目立ってしまうようになっては、本末転倒ですよね。

さらに、アライナーを装着したまま色の濃い飲食物を摂取すると、アライナーが歯の表面を覆っているため、色素が歯とアライナーの間に長時間閉じ込められることになります。これは、アライナーだけでなく、歯そのものへの着色(ステイン)のリスクをも高めてしまいます。歯並びが綺麗になったのに、歯が黄ばんでしまっては、喜びも半減してしまいます。

 

2. 要注意!着色の2大巨頭「カレー」と「コーヒー」との付き合い方

 

ご質問にあった「カレー」と「コーヒー」は、残念ながら、数ある飲食物の中でも、特に着色力が強い、まさに「2大巨頭」と言えます。

  • カレー(特にターメリック) カレーに含まれるスパイス、特に「ターメリック(ウコン)」に含まれる黄色の色素「クルクミン」は、非常に強力な着色力を持っています。その染まりやすさは、矯正歯科医や衛生士の間でも有名で、「調整前日以外は食べないでください」と指導するワイヤー矯正のゴム(モジュール)を一瞬で真っ黄色に染めてしまうほどです。マウスピース(アライナー)も例外ではありません。プラスチックの微細な隙間にクルクミンが入り込むと、透明だったアライナーが、一回の食事で見事に黄ばんでしまいます。
    • 対策:カレーを食べる際は、必ず、絶対に、マウスピースを外してください。 これは、マウスピース矯正中の鉄則です。食後は、色素が歯や粘膜に残っているため、可能であれば歯磨きをしてから、最低でもしっかりと水で口をゆすいでから、アライナーを再装着しましょう。
  • コーヒー コーヒーに含まれる「ポリフェノール(タンニンなど)」も、着色(ステイン)の主な原因物質です。毎日、習慣的にコーヒーを飲む方は、歯そのものにも着色しやすい傾向があります。
    • 対策:これも、原則としてアライナーを外してから飲むのがベストです。しかし、「仕事中に、どうしても外せない会議でコーヒーが出た」「一息つきたい時に、いちいち外すのは面倒」というお気持ちも分かります。もし装着したまま飲む場合は、アイスコーヒーを選び、できるだけストローを使って、アライナーや歯の表面に触れないように喉の奥に流し込むように飲む、という工夫が考えられます(ただし、リスクはゼロではありません)。そして、飲んだ後は、すぐに水で口をゆすぐことを徹底してください。ホットコーヒーは、色素の問題だけでなく、熱によるアライナーの変形リスクもあるため、装着したまま飲むのは絶対に避けてください。

 

3. 着色だけじゃない!マウスピース装着中の飲食がもたらす別のリスク

 

「着色さえ我慢すれば、別にいいのでは?」と思われるかもしれませんが、問題はそれだけではありません。マウスピースを装着したまま、水以外の飲食物を摂取することには、着色よりも、さらに深刻なリスクが潜んでいます。

  • 虫歯リスク コーヒー(加糖)、紅茶(加糖)、ジュース、スポーツドリンクなど、糖分を含む飲み物を装着したまま飲むと、その糖分が歯とアライナーの間に閉じ込められます。お口の中には、唾液による自浄作用(汚れを洗い流す働き)や緩衝作用(酸を中和する働き)がありますが、アライナーによって歯が唾液から隔離されるため、その効果が発揮されません。その結果、閉じ込められた糖分をエサにして、虫歯菌が酸を作り続け、歯が常に酸にさらされるという、虫歯にとって最悪の環境が出来上がってしまいます。
  • 酸蝕歯(さんしょくし)リスク 糖分を含まない、炭酸水、お酢ドリンク、柑橘系のジュース、ワインなども、強い酸性の飲み物です。これらも、糖分と同様に、アライナーの下で歯の表面に停滞し、歯のエナメル質そのものを溶かしてしまう「酸蝕歯」の原因となります。
  • アライナーの変形リスク コーヒー、紅茶、白湯など、熱い飲み物は、アライナーのプラスチックを変形させてしまう可能性があります。変形したアライナーは、歯にぴったりとフィットしなくなり、計画通りに歯を動かすことができなくなります。これは、治療期間の延長に直結する、重大なトラブルです。

このように、「着色」は、数あるリスクの中の一つに過ぎません。お口の健康と、治療計画の進行を守るためにも、「アライナー装着中に口にして良いのは、原則として“水”だけ」というルールを、ぜひ守っていただきたいのです。

 

4. マウスピースの交換頻度と着色の関係:どのくらいで新しくなる?

 

「カレーを食べたら、そのアライナーをずっと使い続けないといけないの?」というご不安もあるかと思います。ここで、マウスピースの「交換頻度」が関係してきます。

マウスピース矯正(インビザラインなど)は、治療計画に基づいて作製された、少しずつ形の違うアライナーを、順番に交換していくことで歯を動かします。この交換頻度は、患者様の歯の動きや治療計画によって異なりますが、一般的には7日~14日(1週間~2週間)に1回、新しいアライナーに交換します。

つまり、もしカレーを食べてアライナーが黄ばんでしまっても、その黄ばんだアライナーを、何ヶ月も使い続けるわけではないのです。「交換日の直前」であれば、精神的なダメージは比較的少なくて済むかもしれません。

例えば、「明日は新しいアライナーに交換する日だ」というタイミングであれば、その日の夕食にカレーを食べる、という“計画的な楽しみ方”は、現実的な妥協案としてアリかもしれません(もちろん、食後の歯磨きは必須です)。逆に、新しいアライナーに交換したばかりの初日にカレーを食べてしまうと、その黄ばんだアライナーと、1~2週間付き合い続けることになってしまいます。

アライナーは、1枚あたり数日~2週間程度で交換していく「消耗品」でもある、ということを知っておくと、着色への恐怖心も、少しは和らぐのではないでしょうか。ただし、交換頻度に関わらず、歯そのものへの着色リスクや、虫歯・酸蝕歯のリスクは常に存在するため、「外して食べる」という原則は、できる限り守ってください。

 

5. どうしても食べたい!飲みたい!時の着色対策とアフターケア

 

原則は「外す」ですが、日常生活では、どうしても外せない場面や、うっかり食べてしまった、ということもあるかもしれません。そんな時の「次善の策(応急処置)」と、その後の正しいアフターケアについて、歯科医師としてアドバイスします。

  1. 必ず外す(基本の徹底) これが最強の対策です。カレー、コーヒー、紅茶、ジュースなど、水以外のものは、面倒でも、必ずアライナーを外してから摂取してください。これが、歯とアライナーの両方を守る、最も確実な方法です。
  2. 食後・飲後のケアを徹底する アライナーを外して飲食した後は、できるだけ早く「歯磨き」をして、お口の中をリセットしてから、アライナーを再装着してください。色素や糖分、酸がお口の中に残ったままアライナーを戻すと、装着したまま飲食するのと、同じリスクを招きます。
  3. 歯磨きができない時の「応急処置」 外出先などで、すぐに歯磨きができない場合は、最低でも「水」で、強く、念入りに、お口をゆすいでください(ぶくぶくうがい)。お茶やコーヒー程度であれば、これだけでも、歯や粘膜に残った色素をかなり洗い流すことができます。カレーなどを食べた後は、水でゆすぐだけでは不十分な場合もありますが、何もしないよりは格段にマシです。そして、帰宅後や、可能になった時点で、できるだけ早く歯磨きとアライナーの洗浄を行ってください。
  4. アライナー自体の洗浄 アライナーは、外した際に、毎回流水下で、指や柔らかい歯ブラシ(歯磨き粉はつけない)で優しく洗浄しましょう。汚れや臭いが気になる場合は、「マウスピース専用の洗浄剤」を、週に数回使用するのも非常に効果的です。これにより、目に見えない細菌や、沈着し始めた色素を除去し、アライナーを清潔に保つことができます。

 

6. まとめ

 

マウスピース矯正中の、カレーやコーヒーといった着色しやすい飲食物との付き合い方について、ご理解いただけましたでしょうか。

  1. マウスピース(アライナー)は、「カレー(クルクミン)」や「コーヒー(ポリフェノール)」などの色素で、非常に着色しやすい素材(プラスチック)でできている。
  2. 「着色」だけでなく、装着したままの飲食は「虫歯」「酸蝕歯」「装置の変形」といった、より深刻なリスクを招く。
  3. 治療を成功させるための鉄則は、「アライナー装着中は、“水”以外の飲食はしない」こと。
  4. アライナーは、7日~14日程度で新しいものに交換するため、万が一着色しても、そのアライナーを永遠に使い続けるわけではない。
  5. どうしても着色しやすいものを飲食する際は、「必ず外し」「食後に歯磨き(最低でも水ですすぐ)」を徹底すること。

矯正治療は、あなたの生活の一部となります。多少の我慢や工夫は必要ですが、正しい知識を持ってルールを守れば、お口の健康を守りながら、日々の楽しみと、理想の歯並びの両方を手に入れることは、決して不可能ではありません。私たち大木歯科医院は、患者様一人ひとりのライフスタイルにも寄り添いながら、最適なアドバイスをさせていただきます。三重県鈴鹿市で、マウスピース矯正の不安や疑問をお持ちの方は、どんな些細なことでも、お気軽にご相談ください。

日本矯正歯科学会 認定医「坂巻 拓馬」

鈴鹿市の歯医者「大木歯科医院」 日本矯正歯科学会 認定医坂巻 拓馬

略歴

  • 徳島大学歯学部卒業
  • 医療法人大木会 大木歯科医院(鈴鹿院)
  • 医療法人大木会 大木歯科・矯正歯科 四日市(四日市院)

資格・所属学会

  • 日本矯正歯科学会 認定医
  • 日本矯正歯科学会
  • 中四国矯正歯科学会
  • 日本顎関節学会

子どもから大人まで、繊細な治療を心がけています

将来的にも健康で美しい歯を守り、みなさまが矯正治療によって良い笑顔になれるようにお手伝いします。

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