受験期と矯正治療、両立できる?痛みや通院の負担に関する不安に歯科医がお答えします
こんにちは。三重県鈴鹿市の大木歯科医院 院長の笠井 啓次です。
当院では、お子様の健やかな成長をサポートするための小児矯正にも力を入れております。お子様の将来を見据えて矯正治療をご検討される親御さんから、近年非常に多くいただくようになった切実なご相談があります。それは、「受験期と矯正治療が重なってしまうが、大丈夫だろうか?」というお悩みです。
「中学受験(あるいは高校受験)を控えている大切な時期に、矯正の調整の痛みが、勉強に集中できない原因にならないでしょうか?」 「塾や模試で忙しい中、定期的な通院が負担になりませんか?」 「もし、テスト期間や受験本番と調整日が重なったら、時期をずらすことは可能なのでしょうか?」
お子様にとって、受験は人生の大きな節目の一つです。その大切な時期に、治療による身体的・精神的な負担をかけてしまうのではないか、とご心配されるお気持ちは、親として当然のことです。矯正治療は、年単位の長いお付き合いになります。だからこそ、お子様の学業という、もう一つの大切な「本番」と、どう両立させていくかは、私たち歯科医師にとっても非常に重要なテーマです。今回は、この「矯正治療と受験期の両立」に関する皆様の不安について、専門家の立場から詳しくお答えしていきます。
目次
- はじめに:子どもの矯正(小児矯正)と受験期が重なる悩み
- 小児矯正の「第一期治療」と「第二期治療」:受験期と重なりやすいのは?
- 矯正治療の「痛み」の実際:勉強への集中力にどれくらい影響するのか?
- 「通院頻度」と「調整時期」:受験期の負担を減らす具体的な方法
- 調整をずらすメリットと、知っておくべきデメリット(リスク)
- まとめ
1. はじめに:子どもの矯正(小児矯正)と受験期が重なる悩み
子どもの矯正治療を考える上で、多くの場合、その治療期間は、お子様の学齢期や思春期と重なります。そして、その中には、必ず「受験」という、大きなライフイベントが含まれてきます。小学校高学年での「中学受験」、中学3年生での「高校受験」、そして高校3年生での「大学受験」。これらは、お子様が人生で初めて経験する、大きなプレッシャーと戦う時期でもあります。そんなデリケートな時期に、「矯正の装置が気になる」「調整が痛くて集中できない」「塾を休んで歯医者に行きたくない」といった、治療によるストレスが加わることは、親御さんとしては、何としても避けたいとお考えになるでしょう。私たち歯科医師も、そのお気持ちは痛いほど理解しています。矯正治療の目的は、単に歯並びを綺麗にすることだけではありません。その子が、自信を持って笑顔になり、健やかな心身で成長していくためのお手伝いをすることです。そのためには、治療が学業の妨げになったり、過度な精神的負担になったりしないよう、最大限の配慮をすることが、私たちの責務であると考えています。お子様の矯正治療は、ご家族と、私たち歯科医院との、まさに「二人三脚」です。大切な受験というハードルを、治療とどう両立させていくか。その答えは、決して一つではありません。まずは、どのような問題が起こり得るのか、そして、どのような対策が可能なのかを、正しく知っていただくことから始めましょう。
2. 小児矯正の「第一期治療」と「第二期治療」:受験期と重なりやすいのは?
一言で「子どもの矯正」と言っても、実は、その子の成長段階に合わせて、大きく二つのフェーズ(時期)に分けられます。どちらの治療が、お子様の受験期と重なりそうなのかを知ることは、負担を予測する上で非常に重要です。
- 第一期治療(骨格矯正期・混合歯列期)
- 時期の目安:6歳~12歳頃(永久歯の前歯と奥歯が生え始め、乳歯と永久歯が混在している時期)
- 主な目的:この時期は、顎の骨がまだ柔らかく、成長の真っ最中です。この「ゴールデンタイム」に、歯が並ぶための土台である顎の骨の成長をコントロールすることが、最大の目的です。例えば、顎を広げる「拡大装置」を使って、将来永久歯が並ぶためのスペースを確保したり、受け口(下顎前突)や出っ歯(上顎前突)の傾向がある場合に、骨格的なバランスを改善に導いたりします。
- 受験との関係:この第一期治療は、主に中学受験の時期と重なる可能性があります。
- 特徴:使用する装置は、取り外し式のものや、固定式でも比較的シンプルなものが多く、通院頻度も1ヶ月~2ヶ月に1回程度が一般的です。ワイヤーで歯を一本一本精密に動かすわけではないため、治療に伴う「痛み」も、後述する第二期治療に比べると、比較的マイルドな場合が多いです。また、この時期は、歯並びの根本原因である「口呼吸」や「舌の癖(舌癖)」を改善するためのMFT(口腔筋機能療法)というトレーニングを行うのにも最適な時期です。中学受験までに、この土台作りと癖の改善を終えておくことは、将来的な抜歯リスクを減らし、第二期治療を簡素化できる、という大きなメリットがあります。
- 第二期治療(本格矯正期・永久歯列期)
- 時期の目安:12歳頃~成人(全ての永久歯が生えそろった時期)
- 主な目的:第一期治療で整えた土台の上に、永久歯一本一本を、ワイヤー矯正(ブラケット)やマウスピース矯正(インビザライン)などの装置を使って、最終的に美しく、機能的な位置に精密に並べていきます。
- 受験との関係:この第二期治療は、まさに高校受験や大学受験の時期と、真正面から重なる可能性が非常に高い治療です。
- 特徴:ワイヤー矯正の場合、月に1回程度の通院で、ワイヤーの交換や調整が必要となります。歯を精密に動かすため、調整後には痛みが出やすい時期でもあります。マウスピース矯正の場合は、通院頻度は1.5~3ヶ月に1回程度と少ないですが、1日20時間以上の装着をご自身で管理するという「自己管理能力」が、受験勉強のストレス下で負担になる可能性も考えられます。
このように、特に受験勉強への集中力に影響が出やすいのは、高校受験・大学受験の時期と重なる「第二期治療」であると言えるでしょう。
3. 矯正治療の「痛み」の実際:勉強への集中力にどれくらい影響するのか?
親御さんが最も心配されるのが、この「痛み」の問題でしょう。「調整が痛くて、塾の授業に集中できなかった」「テスト勉強が手につかなかった」となっては、本末転倒です。
矯正治療の痛みには、主に二種類あります。一つは、装置が唇や頬の粘膜に当たってできる「口内炎」の痛み。これは、装置にワックス(粘土のような保護剤)を貼ることで、ある程度防ぐことができます。問題は、もう一つの「歯が動く痛み」です。これは、特にワイヤー矯正で、月に一度の調整(ワイヤーを締め直したり、交換したり)を行った後、約2~3日間をピークに現れることが多い、歯が浮くような、あるいは締め付けられるような「鈍い痛み」です。この痛みのせいで、硬いものが噛めなくなったり、何となく頭が重く感じたりすることは、残念ながら事実としてあります。
この痛みの感じ方には、非常に大きな個人差があります。「全く平気」というお子様もいれば、「痛くて何も食べられない」と訴えるお子様もいます。ですから、「矯正治療は痛いから、受験期は絶対に無理」と決めつける必要はありませんが、「痛みが出る可能性がある」という前提で、対策を立てておくことが賢明です。
【具体的な痛みの対策】
- 痛み止めの服用:調整後の痛みが予想される場合、あらかじめ歯科医院で処方された痛み止めや、ご家庭にある市販の鎮痛剤(飲み慣れたもの)を、調整日の夜や翌朝に服用することで、痛みを大幅に軽減できます。「痛くなるまで我慢する」のではなく、「痛くなる前にコントロールする」という考え方が重要です。
- 食事の工夫:調整後の数日間は、無理に硬いものを食べる必要はありません。おかゆ、雑炊、うどん、スープ、ゼリー、プリン、豆腐など、栄養価が高く、あまり噛まなくても良い、柔らかい食事を準備してあげてください。
- スケジュールの調整:そして最も重要なのが、この痛みのピーク(調整後2~3日)と、学校の定期テストや、塾の模試、入試本番といった、お子様が最も集中すべき大切な日を、絶対に重ねないように、治療スケジュールを組むことです。これについては、次のセクションで詳しくご説明します。
4. 「通院頻度」と「調整時期」:受験期の負担を減らす具体的な方法
受験生は、とにかく時間がありません。学校、塾、自習…と、分刻みのスケジュールで動いています。その中で、ワイヤー矯正の場合、「月に1回、30分~1時間程度」の通院時間を確保すること自体が、負担になるケースもあるでしょう。この負担をどう軽減するか、そして、前述の「痛み」のピークをどうコントロールするか。それこそが、私たち歯科医師の腕の見せ所でもあります。
結論から申し上げます。「受験スケジュールに合わせた、調整時期の変更は、もちろん可能」です。
私たち矯正歯科医は、お子様の治療計画が、受験などの大切なライフイベントと重なることを、常に念頭に置いています。大切なのは、親御さんが一人で悩まず、できるだけ早い段階で、お子様の受験スケジュール(いつ頃がテスト期間で、いつが本番か)を、私たち担当医に共有していただくことです。
【当院で行っている、受験生への具体的な対応例】
- 例1:定期テストや模試への配慮 「来月の第2週に、期末テストがあるんです」と事前に教えていただければ、その月の調整日を、テストが始まる1週間以上前(例:第1週)に設定したり、逆に、テストが終わった後の第3週にずらしたりします。これにより、痛みのピークと、テスト勉強・本番の期間が重なることを、100%回避できます。
- 例2:受験直前期(例えば、受験本番の1~3ヶ月前)の対応 最もデリケートなこの時期は、患者様やご家族のご希望を最優先し、治療の進め方を柔軟に変更します。
- ① 調整を「スローダウン」または「一時休止」する:受験が終わるまでの数ヶ月間、歯を積極的に動かすための調整(ワイヤーを締めるなど)を、一時的にお休みします。その代わり、歯が後戻りしないように、現状を維持するためのワイヤー(パッシブな状態)に留めておきます。これにより、調整後の痛みは一切発生しなくなります。通院も、装置のチェックやクリーニングだけのために、2~3ヶ月に1回程度に間隔を空けることも可能です。
- ② 受験本番の直前に調整日を入れない:受験本番の2週間前~当日は、何があっても通院の必要がないように、その前の月に、最後の調整と装置のチェックを完了させておきます。万が一、装置が外れるなどのトラブルがあっても、すぐに対応できるように備えておきます。
- ③ マウスピース矯正の場合:受験直前期は、新しいアライナーに進むのを一時的にストップし、現在のアライナーを「リテーナー(保定装置)」として使用し続けることで、現状維持を図る、といった調整も可能です。
このように、受験スケジュールと治療スケジュールは、いくらでも調整が可能です。「歯医者の予約があるから、塾を休まないといけない」と悩むのではなく、「受験があるから、歯医者の予約を動かしてもらおう」と考えていただくことが、お子様の精神的な負担を減らす上で、非常に重要です。
5. 調整をずらすメリットと、知っておくべきデメリット(リスク)
受験期の負担を軽減するために、矯正治療の調整時期をずらしたり、一時的に休止したりすることは、非常に有効な手段です。その最大のメリットは、言うまでもなく、受験勉強という「本番」に、痛みや通院のストレスなく、全力で集中できる環境を整えられること(精神的・身体的メリット)です。
しかし、この「調整をずらす」という選択には、必ず知っておかなければならないデメリット(リスク)が存在します。それは、「治療全体の期間が、休止した分だけ(あるいは、それ以上に)延長される」という、極めて単純明快な事実です。
矯正治療は、毎月コンスタントに力を加え続けることで、計画通りに歯が動いていきます。そのプロセスを、受験のために数ヶ月間ストップするということは、マラソンで言えば、途中で数ヶ月間、立ち止まっているのと同じです。当然ながら、ゴールテープを切る時期は、その分だけ後ろにずれ込みます。例えば、「高校3年生の夏までに終わるはずだった治療が、大学受験と重なったために休止し、大学1年生の夏までかかってしまった」といったケースは、非常によくあることです。
さらに、もう一つの見過ごせないリスクが、「虫歯や歯肉炎のリスク増大」です。受験生は、勉強のストレスから、甘いものの間食が増えたり、夜食を食べたり、疲れ果てて歯磨きが疎かになったりしがちです。ただでさえ、矯正装置によって清掃が難しい状態であるにもかかわらず、調整やクリーニングのための通院間隔まで空いてしまうと、お口の中の衛生状態は急速に悪化します。調整を休止している間に、虫歯ができてしまった…となっては、受験どころではありません。
したがって、受験期に調整をずらすという選択をする場合は、
- メリット:受験勉強に集中できる。
- デメリット:①治療期間が確実に延長すること、②虫歯リスクが高まるため、通常以上の徹底したセルフケアが求められること。
この2つのデメリットを、親御さんとお子様ご自身が、しっかりと理解し、覚悟した上で、私たち歯科医師と相談して決断することが、何よりも重要です。「痛くないからラッキー」ではなく、「治療期間は延びるけれど、今は受験に集中しよう。その代わり、歯磨きだけは絶対に手を抜かないぞ」という、前向きな切り替えが必要なのです。
6. まとめ
お子様の矯正治療と、大切な受験期との両立。その不安は、正しい知識と、事前の計画によって、必ず解消することができます。
- 子どもの矯正は、顎の成長を促す「第一期治療」(主に中学受験期)と、歯並びを整える「第二期治療」(主に高校・大学受験期)に分けられる。
- 特に受験勉強への負担(痛み・通院)が懸念されるのは、第二期治療。
- 矯正の「痛み」は個人差があるが、鎮痛剤の使用や、食事の工夫、そして「調整時期の変更」で、コントロールが可能。
- テスト期間や受験本番に、痛みや通院が重ならないよう、調整日をずらすことは、ほとんどの歯科医院で可能。
- 調整をずらす最大のメリットは「受験に集中できる」こと。最大のデメリットは「治療期間が必ず延長する」ことと「虫歯リスクの増大」。
- 最も大切なのは、一人で悩まず、早期に「受験の予定」を歯科医師に伝え、相談すること。
お子様の歯並びは、10年後、20年後の健康を左右する、一生の財産です。そして、受験勉強も、その子の未来を切り拓くための、かけがえのない経験です。どちらかを犠牲にする必要は、全くありません。私たち大木歯科医院は、お子様の大切な「今」と「未来」の両方を守るため、ご家族と密にコミュニケーションを取りながら、学業と治療を両立するための最適な治療計画を、オーダーメイドでご提案します。三重県鈴鹿市で、お子様の矯正治療と受験の両立にお悩みの方は、どうぞお気軽に、私たちにご相談ください。
