インプラントはMRIや空港の金属探知機に反応する?歯科医が不安にお答えします
こんにちは。三重県鈴鹿市の大木歯科医院 院長の笠井 啓次です。
インプラント治療が普及するにつれ、患者様からいただくご質問も、より具体的で、生活に密着したものになってきました。その中でも、特に多くの方がご不安に思われるのが、このようなご質問です。
「先生、インプラントは金属だと聞きました。将来、脳ドックなどでMRI検査を受けることになった時、大丈夫なのでしょうか?」「旅行が好きなので、空港の金属探知機に引っかかってしまわないか心配です。」
確かに、インプラントはチタンという金属でできています。そして、MRIは強力な「磁石」のトンネル、空港では「金属」探知機を通過します。金属がこれらに反応するのではないか、とご心配されるのは、至極当然のことです。
結論から申し上げますと、「一般的な歯科インプラント治療であれば、MRI検査も、空港の金属探知機も、まず心配ありません」というのが答えになります。今回は、なぜそう断言できるのか、その科学的な理由と、ごく稀な例外について、詳しく解説していきます。
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目次
- インプラントの材質「チタン」の特性:なぜ“金属”なのに安全なのか
- インプラントとMRI検査:「磁石に引き寄せられる」という誤解
- MRIで本当に注意すべきこと:画像の「アーチファクト(乱れ)」とは
- インプラントと空港の金属探知機:「ピンポーン!」は鳴る?
- 唯一の注意点:「磁石」を使った特殊な入れ歯について
- まとめ
1. インプラントの材質「チタン」の特性:なぜ“金属”なのに安全なのか
インプラントの安全性についてお話しする上で、まず、その材質について正しく理解していただく必要があります。現在、世界中で使用されている歯科インプラントの材料は、そのほとんどが「チタン」、あるいはチタンを主成分とした「チタン合金」です。なぜ、数ある金属の中からチタンが選ばれているのでしょうか。それは、チタンが持つ二つの非常に優れた性質によります。一つは、骨と強固に結合する「オッセオインテグレーション」という能力。もう一つは、アレルギー反応などを起こしにくい「生体親和性」の高さです。そして、今回のご質問に直結する、もう一つの非常に重要な特性が、「磁性(じせい)」です。金属には、磁石に強く引きつけられる「強磁性体」(鉄、ニッケル、コバルトなど)と、磁石に反発する「反磁性体」、そして、磁石に非常に弱くしか反応しない「常磁性体(じょうじせいたい)」があります。チタンは、この「常磁性体」に分類され、簡単に言えば「磁石にほとんど反応しない、くっつかない金属」なのです。鉄のクリップが磁石に勢いよく引き寄せられるのとは、根本的に性質が異なります。インプラントがMRIや金属探知機に対して安全である理由は、そのほとんどが、この「チタン」という金属の特性に基づいています。
2. インプラントとMRI検査:「磁石に引き寄せられる」という誤解
患者様がMRI検査で最も恐れられるのは、「インプラントが、MRIの強力な磁石に引き寄せられて、顔から飛び出してしまうのではないか」「金属が発熱して、火傷するのではないか」という点だと思います。MRI検査室に入ると「金属類厳禁」と厳しく言われるため、そのようにご不安になるのも無理はありません。MRI(磁気共鳴画像)装置は、非常に強力な磁場(磁石の力)を発生させます。そのため、もし強磁性体(鉄など)でできた金属が体内にあると、それが磁力で引っ張られて移動したり、高周波の電波で発熱したりする危険性があり、大変深刻な事故につながる可能性があります。しかし、ご安心ください。前述の通り、インプラントの主成分であるチタンは、磁石に反応しない「非磁性体(常磁性体)」です。そのため、MRIの強力な磁場の中に入っても、インプラントが動いたり、引き寄せられたり、あるいは高熱を持ったりする危険性は、まずないと断言できます。これは、歯科インプラントだけでなく、整形外科の分野で使われるチタン製のボルトや人工関節などでも同様です。安全に検査を受けていただくことができますので、インプラントが入っているからといって、必要なMRI検査をためらう必要は全くありません。
3. MRIで本当に注意すべきこと:画像の「アーチファクト(乱れ)」とは
「危険性はない」と申し上げましたが、インプラントがMRI検査に「全く何の影響も与えない」かというと、そうではありません。一つだけ、知っておくべき現象があります。それが「金属アーチファクト」と呼ばれる、画像の「乱れ」です。これは、インプラントのような金属(チタンであっても)が体内にあると、その金属がMRIの磁場や電波をわずかに乱してしまい、結果として、インプラントの周囲の画像が、歪んだり、黒く抜け落ちたように写ったりする現象を指します。これは、インプラントが動いたり発熱したりする「危険性」の問題ではなく、純粋な「画質」の問題です。例えば、脳のMRI検査を受ける場合、インプラントはお口の中にあるため、脳の画像に影響(アーチファクト)が及ぶことは、まずありません。同様に、膝や腰の検査でも全く問題ありません。しかし、もし「インプラントのすぐ隣にある舌」や「顎の骨の中」を精密に検査したい、という特殊な場合には、このアーチファクトによって、診断に必要な画像が得られにくくなる可能性はゼロではありません。ですから、インプラント治療を受けた方がMRI検査を受ける際には、危険だからではなく、このアーチファクトの可能性を考慮してもらうために、検査の問診票に「歯科インプラントが入っている」と必ずご記入いただき、担当の医師や放射線技師に申告してください。それさえ伝えていただければ、医療スタッフが適切に対応してくださいます。
4. インプラントと空港の金属探知機:「ピンポーン!」は鳴る?
次に、空港の金属探知機についてです。旅行や出張で飛行機に乗る際、金属探知機のゲートを通過します。「インプラントが原因で、ブザーが鳴って止められたらどうしよう」とご心配される方もいらっしゃいます。こちらも結論から申し上げますと、歯科インプラントが原因で、空港の金属探知機が反応することは、まずありません。 その理由は、大きく二つあります。一つは、やはりインプラントの材質が「チタン」であること。チタンは磁石に反応しにくいため、金属探知機が感知しにくい金属の一つです。もう一つの、そしてより大きな理由は、その「サイズ(金属の量)」です。空港の金属探知機は、ある一定量以上の金属に反応するように設定されています。歯科インプラントは、1本あたりが非常に小さく、金属としての総量がごくわずかです。そのため、探知機が反応する基準値に達しないのです。よく比較されるのが、整形外科で用いられる「人工関節(股関節や膝関節)」です。これらは、大きな金属の塊であるため、空港の金属探知機に反応することがあります。しかし、歯科インプラントのサイズは、それらとは比べ物にならないほど小さいため、まず反応の心配はありません。海外旅行などでも、インプラントカードのような証明書を携帯する必要は、基本的にはありませんので、ご安心ください。
5. 唯一の注意点:「磁石」を使った特殊な入れ歯について
「インプラントなら、絶対にMRIも空港も大丈夫」と申し上げてきましたが、歯科治療の中には、一つだけ、特にMRI検査において注意が必要なケースが存在します。それは、インプラント治療の応用編とも言える、「磁性アタッチメント義歯(インプラントオーバーデンチャー)」を使用している場合です。これは、取り外し式の入れ歯を、顎に埋め込んだインプラント(あるいはご自身の歯の根)に、「磁石」の力でパチンとくっつけて安定させる、非常に優れた治療法です。この治療法では、入れ歯側と、インプラント側(あるいは歯の根側)に、一対の小型磁石(あるいは磁石にくっつく金属)が装着されています。当然ながら、この磁石は「強磁性体」です。そのため、MRI検査を受ける際には、この磁石を装着した入れ歯は、必ず外さなければなりません。 また、インプラント側や歯の根側に埋め込まれている「キーパー」と呼ばれる金属についても、MRI検査の担当医に、その存在を必ず申告する必要があります。(キーパー自体は磁石に反応しない金属が使われていることがほとんどですが、申告は必須です)。これは、一般的なネジで固定されたインプラントとは全く異なる、特殊なケースです。ご自身がどのような治療を受けているか、担当の歯科医師に確認しておくことも大切です。
まとめ
インプラントと、MRI検査、空港の金属探知機に関するご不安は、解消されましたでしょうか。最後に、重要なポイントをもう一度おさらいします。
- 一般的な歯科インプラントの材質「チタン」は、磁石に反応しない(非磁性体)ため、安全です。
- MRI検査を受けても、インプラントが動いたり、発熱したりする危険性はまずありません。
- ただし、画像の乱れ(アーチファクト)が出る可能性があるため、検査の際は「インプラントが入っている」と必ず申告してください。
- 空港の金属探知機は、インプラントが「チタン製」で「非常に小さい」ため、まず反応しません。
- 唯一の例外として、「磁石」を使った特殊な入れ歯(磁性アタッチメント)を使用している場合は、MRI検査の前に必ず申告し、入れ歯を外す必要があります。
インプラント治療は、あなたの将来の健康管理や、豊かなライフスタイルを妨げるものではありません。正しい知識を持って、過度に恐れることなく、安心して治療をご検討ください。当院では、こうした治療後の生活に関するご不安にも、一つひとつ丁寧にお答えしています。どんな些細なことでも、お気軽にご相談ください。

略歴
- 国立徳島大学歯学部卒業
- American Academy of Implant Dentistry
- Associate Fellow
- Astra tech implant インストラクター
- Osstem implant インストラクター
- 歯科医師臨床研修指導歯科医
資格・所属学会
- アメリカインプラント学会(AAID)
- 日本口腔インプラント学会
- 日本審美歯科学会
- 日本臨床歯周病学会
- 日本小児歯科学会
- 東京SJCD会員
一人ひとりの多様なニーズにお応えします
当院は難しい症例を含む多くの症例を経験しており、患者様の理想通りの治療をご提供できるよう、チーム一丸となって取り組んでいます。